明日への提言

いのちみつめて「役立ち感で自分が好きになっていく」人と関わる教育の継続的実践で日本の子どもは救われる

少年による悲しい事件、さらに、いじめ、暴力、不登校、学級崩壊、言ってもしない、人の話が聴けない、コミュニケーションができない、思いやりがない、自分勝手な行動など、教育現場を取り巻く様々な諸問題は、もはや国を挙げての話題になっているが、これらは決して個別的なものでなくこれら一連の問題の根底には子供達が「より良い人間関係の築き方を知らない」「人との良い関わり方を知らない」と言った事があるように思われます。

その大きな原因の一つに「人との関わり方の経験が絶対的に不足している」と考えます。つまり、人は人との関わりの中で『人間関係術』を学び、人になると言われますが、今日の子供達(大人も同様)は明らかに人間関係のあり方の未熟さと様々な人間関係体験が不足していることが、今日の様々な心の歪みを生んでいると考えます。

しかし、多くの評論家は、自然体験の不足、核家族化、バーチャルと現実の区別がつかない、親の教育がなってない、学校だ、地域だなど、原因と思われる内容について意見が交わされていますが、評論を何百回繰り返しても何も解決しません。
また、心の教育相談員やスクールカウンセラーを配置しても根本的な解決になるとは思えません。

そんな中で、私が勤務していた鳥取県中部に位置する鳥取県立赤碕高校で9年間実践されてきた人との関わり方を学ぶ「以下、人間関係体験学習という)は、生徒たちに自分の生き方を考えさせることを中核としたもので、より良い人間関係作りや人との関わりを、継続的な営みとして体験的かつ実感をもって学習させようとする画期的な実践でした。

この人間関係体験学習は、大まかに言うと人間関係の基礎を学ぶ学習と応用編の2つの大きな柱からなり3年間にわたり継続的に人と関わる場を提供することで、今日失われつつある人間関係にメスを入れた「壮大なドラマ」となっています。

学習内容は、次の@Aの2つの柱があります。
@コミュニケーション・ゲームなどでクラスの仲間とふれあうことで、他人と関わる事の抵抗を少しでも少なくし、人とふれあうことの楽しさを体感する。
力を合わせることやホスピタリティ(心配り)、人の話を聴く、挨拶、共感などのあり方をグループでの「気づきの体験学習」で、他人や集団との良い関わり方を学びます。

そして、人間関係の応用として、A保育所園児や高齢者とそれこそ1対1で長期間関わる事で、@の授業で学んだことを実際に実践することで、@で学んだ人と関わる事が、「ああこういうことなんだ!」と体験的に理解できていくのです。
その中で、自分の良さや他人を思いやることを気づいていきます。
人と関わるには、相手の心のありようを想像して、その心に添った行動をする事が大切です。
つまり、生徒達は、園児や高齢者がどうしたら喜んでくれるかを一生懸命考えながら関わっていくのです。

全国でも珍しい継続的に人間関係づくりを学ぶ授業実践も平成8年から閉校までの平成17年3月まで9年間ひたすら全国発信し続けてきました。
学習を進めていく中で、高校生のパートナーである園児や高齢者などそばにいる人から喜ばれ、高校生は役に立ったという「役立ち感」を実感します。
「こんなに自分の事を喜んでくれる人がいる」
「こんなに自分の命って価値があるのか。生きていてよかった!」
と体感し、自分に対する肯定的な自己イメージにつながっていくのである。
自分を肯定する気持ちがあると、それが大きな自信となり、自分が好きになり他人の意見や行動まで受け入れるようになっていきます。
「働きたい」「学びたい」と言う意欲もわいてくる。
まさに、「役立ち感」「自己肯定感」は人間としての基盤でやる気と元気の原動力だ。

また、五感を通して園児や高齢者と関わる中で、誕生の際の壮大なドラマを再確認し、自分の命はかけがえのない大切な命で「簡単に死んではいけない」と気づいていきます。

こうして、生徒は、3年間の学習を終えると、
「人とたくさん関わる中で、相手に対する思いやりが自然に態度にあらわせるようになりました」
「どうしたら人に喜んでもらえるかを考える事ができるようになりました」
「この学習をしなかったらクラスはバラバラで、せっかく会えた人たちの良い所を見ないまま卒業していました。お互いの意外な面を見て、見方や接し方がかわりました」
「人を外見で判断したらいけないことを一番に学びました」
などと、学んだ事を書き綴っています。

これが赤碕高校で人との関わり方を学んだ17歳の子供達が発する言葉です。
日本中のあちこちで子ども達の様々な心の問題が取りざたされる中で、赤碕高等学校が9年間にわたり実践してきた継続的な人間関係づくり授業から学んだ子どもたちの言葉に明るく輝く未来への希望を見ることができます。

いかがですか。人と関わる場を提供する「人間関係体験学習」は、子どもたちの精神的、社会的発達を促す機能があり、子どもたちの健全な成長を助ける教育的価値があります。
一日も早く全国の教育現場にこのような人と関わる継続的な学習が取り入れられると、対人コミュニケーション能力を高めたり、役立ち感を実感し自己肯定感を育むなど、今日の様々な諸問題を解決する一助になることは9年間の実践で確かな手ごたえを感じています。

人間いくら歳をとっても、人にみつめていてもらいたい、話しを聴いてもらいたい、人に認められたい、人に大切にされたいのです。子ども達はなおさらです。
その子ども達がそばにいる人から大切にされたり、喜ばれ、自分の優しさに気づき、自分を好きになっていきます。
「私にはこんな力があったんだ」「生きてて良かった」と。
そして、「人間っていいな!」「生きててうれしい」と言う気持ちがやる気を起こさせ、生活を意欲的なものにし、仲間や周りの人たちに温かいまなざしを向けるようになります。
もう、これは、いち鳥取県立赤碕高校の取組であってはなりません。
対人コミュニケーション能力を身につけたり自分の存在を確信することで「生きていてうれしい」を実感することは日本中の全ての子どもたちに不可欠な時代。

赤碕高校が実践する営みが全国で実践されると、やがてその子どもたちは親になる予備軍です。
5年10年すればその子どもたちが親になり、子育てがもっとスムーズになり虐待はなくなるかもしれない。
また、大人として地域のまつりごとにも積極的に参加する人が増え地域も活気づく。
職場でも相手の気持ちを受け止める人が増えて職場の人間関係もスムーズになります。
10年この取組が実践されることで日本は今以上に温かい国になるのではないだろうか。
そんなことを考える思わずワクワクする。

一昔前と違い、人間関係体験の未熟さや生活体験の不足などで、「自己肯定感」が乏しかったり『人間関係術』を身に付けることなく学力優先の教育で育った人たちが、「お金一番、命は二の次」「自分勝手で人の事など我関せず」の生き方をする人がいかに多いことか・・・。

人と人とがふれあいの中で今を生かさせていただいているという事に突然の病をはじめ、6年間の夜間定時制高校勤務での生徒との関わり、そして,9年間の赤碕高校の人と関わる教育で気づかされてきました。
「親や大人になるための準備教育」とまでいわれてきた継続的な人間関係づくりの学習を実践する鳥取県立赤碕高校ですが、残念にも平成17年3月で閉校(鳥取県の高校教育基本計画)となりました。

しかし、なくなってもどうか,一人でも多くの方が鳥取県立赤碕高校が実践してきた取組を知って欲しい。

今まで県内や全国放映されたビデオを観たり、「いのちにふれる授業(小学館)」「自分が好きになっていく(アリス館)」の実践記録の拙著を読んで欲しい。
できることなら、一日も早く日本中の教育現場、とりわけ小学校などの早い時期から教育課程に位置づけられて実践されたら、日本の子どもたちはクラス内で仲間との不安や緊張を持たず、あったかい雰囲気の中で安心してして学習に専念できると考えます。
そして、他の活動にも意欲的に取り組むようになるのは必至です。
それは、プラスのストローク(存在の承認)をたくさんもらったりあげたりすることで、人間としての喜び「生きていてうれしい!」と実感し、自分や他人が好きになるからです。

こんな取り組みが全国で実践されたら、考えただけでもうきうきしてきます。
そんな学習をした子供たちが親になり、子どもを育てる。
そのとき、日本はきっと温かい国になっているでしょうね。
子育て不安もなくなり、虐待などもなくなるなるでしょう。
まさに、親や大人への準備教育。心の予防医学といえます。

そして、そんな親が地域や職場で生きる。地域も職場も活気づきます。

5年待ってくれ!いや1年も待てません。
なぜなら、子どもの命は待ったなしなんですから。

問題解決に向けての提言(子どもたちが瞳輝かすために)

  1. 「人と関わる教育(人間関係体験学習)」を教育課程に位置づける
    保、幼、小、中、高校、養で人間関係の基礎理論(コミュニケーションゲーム、気づきの体験学習など)と応用(園児や高齢者などと長期交流)で子ども達の心に喜怒哀楽の感情をダイナミックに流し込み、役立ち感を育む。自分の存在に自信を持つ子供たちは、生き生きしクラス内の雰囲気も仲間との不安や緊張が無くなり、明るいものとなり、安心して学習に取り組んだり、生活への意欲も自然と高まる。
    そして、相手のことを思いやることもできるようになる。
    人間は自尊感情なくして生きてはいけない。人は集団の中で生きる。
    とすると、まさに、人間としての基盤を育む教育が残念なことだけど教育課程に位置づけないといけない時代となっているのではないだろうか。
  2. 医師や教師、保育士、看護師などを目指す大学、短大、看護、医療などの専門学校に本校のレク授業をヒントに「人間関係学」などを学ぶカリキュラムを早急に検討する。
    自己肯定、思いやり、人間関係、コミュニケーション能力などを継続的に学ぶカリキュラムを。
  3. 公民館に人間関係づくりのプロの専任職員を配置。
    専任のコーディネーターが地域の子ども達の人間交流を始め、地域内の人間関係を修復するプログラムや指導を担当する。
  4. 保育所、保育園での人的環境を整備
    園児が1対1で高校生と交流するとき自分を受け止めてくれるというプラスのストロークをもらうことで瞳輝かすことがわかる。
    よって、園児と1対1で向き合えるだけの保育士の数を増やすことが急務。
  5. 食を視点にいのちを学ぶ教育の推進
    いのちの土台である食。その食の安全性や子どもも大人も食い誤っている食生活をどうするか、人間関係を食べる食の見直し。
  6. 学校現場にもっともっと柔軟な人材交流を
    勤務地の生徒との関わりだけでなく、他の学校の生徒や教師との交流の場を

人生の旅とは歩きながら、時には、走りながら道をつくっていくのです。